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宇宙戦艦ヤマトのメカデザインを展開する |
宇宙戦艦ヤマトは現在のデザイン論法では説明のつかない設計思想と複雑な経緯でデザインされたメカである。
正規の設定資料を持ってしても、その内容は簡単に読み解けるものではない。
自分の一方的見解や解釈を交えず、まずヤマトの外観として描かれている画稿をできるだけ丁寧にたぐり、
ヤマトの基盤形状を把握することに専念。
フェアリーダー
@ヤマト初期設定画艦首上部。フェアリーダーの厚みに特徴がある。 |
フェアリーダーのクリンナップデザインは艦体との接点に向かって厚みを増す断面形になっていて、
分割線から内側へ傾斜する形状になるニュアンスで描かれている。
しかし映像にこの形状はまったく反映されておらず、アウトラインのみの作画が大部分を占める。
また、暫定デザインのものも若干混在。
設計図化の際には傾斜角がなくなり、デザイン自体もおよそコンスタントに作画されていた板状の断面形にシフトしている。
フェアリングのアウトラインにつけられたアクセントは艦首先端のポールの有無、または設置箇所でフォルムが分かれるようだ。
球状艦首
@ヤマト後方パースA。暫定的フォルムのデザイン初期状態では、喫水線をはさんだバランスに偏りがあった。 |
ヤマトの球状艦首は、前甲板に比べて幅広の艦底側面が波動砲砲身付近でようやく内側に入る流線型と、
前下方に向かってゆるやかに膨らむ特殊なアウトラインを持つ。
クリンナップへの経過で大型化した波動砲口径と吊り合うよう前方へ大きく突き出しただけでなく、
もともと特徴的だった横方向へのボリュームが伴い、ヤマトのイメージを決定付けるシルエットに発展している。
立体的には、船舶設計面から運用上の適性考慮から球状艦首よりも前甲板の幅が広くなる形式を選択したことは暗に支持され、
クリンナップデザインが造形面に反映されることはなかった。
この精密設計図の形式はシリーズ最新作[宇宙戦艦ヤマト復活篇]をもって、
初めて正式なデザイン要素に加わったことになるのかも。
艦首波動砲
@ヤマト初期設定画艦首上部。波動砲口と砲身を支える艦首中段は面構成に違いがある。 |
前甲板はフェアリーダーにはさまれた航法室ドームの位置に段差があり、そこから上に向かって膨らむカーブが付けられている。
つまり、波動砲砲身は艦首甲板ごと前上方へせり上がる形状になるわけだ。
この形式は前甲板の景観が描かれるアングルにこの特徴を反映しにくいことと、
劇中で戦艦大和に近似した作画が多用されたことなどから、
バリアフリーのような印象が根付き、オミットされたと見られる。もちろん立体造形にも反映されたことはない。
初期設定画では別パーツのような形状だった艦首中段は、波動砲砲身の面構成と融合して一体成型になり、
砲口径は倍化して前方に向けて大きくフレアするラインに完成された。
しかし、これも甲板形状の都合から立体面には反映されず。
前甲板
@ヤマト初期設定画中盤。第二主砲フロアは司令塔基部ユニットとして描かれている。 |
板状フロアの張り方、第二主砲フロア形状などへの段階的アプローチが見られる。
司令塔基部に組み込まれていた名残かもしれないが板状フロアは第一主砲止まりで、
第二主砲フロアは傾斜した断ち切り面となっている。
立体造形上のスタンダードである前甲板フラット化は、ドーム両脇スペースに関係すると見られる。
クリンナップデザインではフェアリーダー内側側面と接していた箇所が作画モチーフから独自に解釈され、
イメージの基準となったらしい。
映像上で両者は混在するがクリンナップデザインはフェードアウトし、設計図にも反映されていない。
主砲
@3連装48cm衝撃砲クリンナップデザインその1。決定稿トレスのヤマトに反映された形式。 |
基本的に搭載兵器は作画対象となる設定画のものが描かれたらしく、
暫定デザインの型とクリンナップデザインの型が混在している。
しかし、砲塔や砲身の形状・ディテールに違いのある二つのデザイン形式はいずれも設計図には反映されなかった。
仰角可動と旋回可動を全砲塔で統一する都合上、デザイン面を切り捨てざるを得なかったのかもしれない。
司令塔A
@ヤマト初期稿司令塔。これが基本形式。 |
司令塔全景は、ヤマト初期稿をベースに艦体フォルムに連動して段階的に形状を詰められている。
クリンナップデザインはユニットごとの描写よりもアウトラインと全体のバランスに主眼を置いて描かれたようで、
決定稿段階では立体的にかなり複雑な形状に仕上げられている。
司令塔B
@大司令塔第一艦橋外観。初期設定画の特徴を引き継ぎながらも、フォルム・ディテールは大きく異なる。 |
舞台設定として最重要ユニットとなる第一艦橋区画が内装・外観一式で起こされた別ルートのクリンナップデザイン。
このビジョンは暫定デザインのヤマト後方パースにつなげられ、背面形が固められたが、
艦体とデザインラインをリンクさせることなく決定稿に移行したため、
ヤマト全景デザインとは独立した趣向が強く出ている。
後甲板
@ヤマト後方パースA艦尾。デザイン初期は第三主砲がギリギリ搭載可能なスペースを想定していたらしい。 |
暫定デザインまでの後甲板は第三主砲を置くためだけの補助スペース的な扱いだったが、
クリンナップデザインで艦内レイアウトを反映した外観が設定され、
艦載機デッキの用途に見合った形状に切り替えられた。
外形そのものは設計図にも引き継がれている。
司令塔基部
@ヤマト後方パースA中央部。ラフデザインの段階では艦体との境目があいまいで、煙突の両サイドは艦載機射出口が想定されていた。 |
構造物が建て込んでいてアウトライン更新の激しい箇所である。
艦内レイアウトが決定されたあたりから書き込まれた要素にメリハリがつけられ、
複雑な曲面構成を持つに至ったと見られる。
映像上では極端に作画を簡略した強制パースと、特定箇所の設定画トレスとの混成により、
大雑把なイメージでしか描かれていない。
なお設計図化の際にも、この箇所は大幅にデザイン更新されている。
第三艦橋
@ヤマト後方パースA下半部。真下を向いた三角板、中折れの両翼など、ラフデザイン形状の暫定第三艦橋。ただし、コレも決定稿に移行している。 |
ヤマトのデザイン形状の中では、アドリブ要素の無い設定画と的確な映像化で、
明確なイメージが備わっていると思われる第三艦橋だが、
意外にもアバウトな立体化ばかり目立つユニット。
境遇もひどいけど、着目もされないとは形容し難い責め苦である。
設計図における第三艦橋には、前面に司令塔と同タイプの中折れ窓が7枚。
正面窓が第一艦橋から1枚ずつ増える暫定デザインの形式に習ったモノのようだけど、窓になるのか...?
支柱部分は曲面構成を緩和し、ソリッド形成に近いニュアンスとなっている。
メインノズル
@ヤマト後方パースA後端。後端に向かって厚みがシャープになるノズル形状。 |
ヤマトの抱えるデザイン上最大の矛盾点があるとされる箇所。
ヤマトは三面図が作成された際、幅員を大きく取ったために側面アウトラインとメインノズル直径が異なっていて、
後面図に側面換算の円形でノズルが描かれたことから、平面図との不一致が発生。
本編中、後方視点外観で円形に作画されたメインノズルはヤマトのビジョンとして定着していることもあり、
当然立体造形にそのまま反映されたワケだが、同時にイメージの解離も表面化したといういきさつらしい。
このクリンナップデザインの整合性を図るため、設計図では艦幅を拡張。
側面カーブを張り出してウォーターラインを大きく後方に絞り込み、
メインノズル開口部を円形に落とし込むという離れ技をやっている。
これにより、設計図上のヤマト艦体はクリンナップデザインを逸脱した極端にグラマラスな形状へと完成された。
それでもこの詳細な検証はヤマトの造形・商品化に多大な貢献となったようである。
艦体
@ヤマト初期設定画。側面外壁の断面形状は、艦底に向かってS字型に大きく膨らむアウトラインになっている。 |
初期段階の不安定な喫水ラインを艦体ボリュームそのままにカサ上げしつつ、
艦尾に飛行甲板を搭載するという常軌を逸した構造設計により、
ヤマトのフォルムはつかみどころのない三次曲面を描くに至った。
設計図化によって作画上は影響のなかった立体面の矛盾点が表面化したところから、
宇宙戦艦ヤマトのビジョンは少しずつ解離・増殖を始めている。
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